陰陽とは
漢方の基本的な考え方である「陰陽五行説」は、「陰陽論」と「五行説」の二つの説から成り立っています。
その陰陽論は古代中国の自然哲学です。自然を二元論で観察すると、天と地、山と海、日なたと日かげ、昼と夜、男と女、寒と熱などのように二つの相対する事象があり、しかもそれらがバランスよく調和しています。
漢方においては、人のカラダの中でもこの陰陽のバランスが整っている状態が健康であり、それが乱れると病気になるという発想があります。日常生活でも「あの人は暗い」とか「私の性格は明るいだけが取り柄」という言葉を耳にすることはないでしょうか。漢方でも同様に病人を陰と陽の2群に分ける考え方があり、陽の要素の強いものを陽証、陰の要素の強いものを陰証と呼びます。 陽証とは気血が十分にあり、新陳代謝が盛んで病邪に対する抗病反応が積極的な時期であり、体温が上昇して熱性傾向を帯び、体力の充実した人が罹患した時になりやすいです。これに対して、陰証は気血が不足気味で新陳代謝が衰え、病邪に対する闘病能力が沈滞気味な時期で、体温上昇は十分でなく、かえって低下する傾向にあり、痩身で無力様の人が呈しやすいです。
| 陰 証 | 陽 証 | |
|---|---|---|
| 病 態 | 寒 性 | 熱 性 |
| 気 血 | 不 足 | 充 分 |
| 闘病反応 | 停 滞 | 活 発 |
| 顔色 | 不 良 | 良 |
| 体温 | 低 下 | 上 昇 |
| 他覚的冷え | 強 | 無~弱 |
| 温熱器具 | 好 む | 好まず |
| 尿の色 | 透 明 | 濃 い |
虚実とは
虚実は漢方医学の重要な概念ですが、その解釈には、時代的変遷があり、現代に至っているため、しばしば用語において混乱をきたしているようです。
江戸時代を経て現在、我が国で最も広く受け入れられている虚実の解釈は基本的な体力あるいは体格(精気の多寡)、または疾病に対する反応(精気と邪気との反応)です。
虚実の二つの物差しは慢性疾患のときと急性疾患のときで使い分けられます。平素の体力、すなわち体質・体格的虚実は慢性疾患において処方を選択する際の指標となります(表)。また、疾病に対する反応は急性疾患に対する反応としてとらえます。この二つは大体パラレルであることが多いですが、必ずしも1対1ではありません。
すなわち体力的に実の人は疾病に対する反応も実のことが多いですが、外邪の勢いが強く、体力的に損耗して虚の反応になることもあります。また平素の体力が虚の人は外邪に対する反応が虚であることが多いですが、時に実の反応を示すことがあります。
| 実 証 | 虚 証 | |
|---|---|---|
| 体 型 | 筋肉質 | やせ、水太り |
| 活動性 | 活 発 | 消極的 |
| 栄養状態 | 良 好 | 不 良 |
| 皮 膚 | 光沢・つや | さめ肌・乾燥 |
| 筋 肉 | 発達良好 | 発達不良 |
| 消化吸収 | 大 食 | 少 食 |
| 体温調節 | 季節に順応 | 夏ばて・冬は疲れる |
| 声 | 力強い | 弱々しい |
| 汗 | 寝汗はない | 寝汗をかく |
健やかなからだをつくる「気・血・水」

気
気は中国思想全体を通じてもっとも重要な概念の一つであり、漢方医学上では生活活動を営む根源的なエネルギーとされています。気は目で見ることができず、何かの機能を持った無形のエネルギーであり、生命活動においては精神活動を含めた機能的活動を統括する役割を担っています。
気は誕生に際して父母から与えられた先天の気と、生誕の後に自然界から取り入れられる後天の気に分けられます。後天の気は呼吸によってもたらされる宗気と飲食物の消化器吸収によって得られる水穀の気からなっています。
血
生体の物質的側面を支える要素が血と水です。
血は気の働きを担って生体を循行する赤色の液体と定義されます。
血は正常の状態では、気の働きによって、その量が保たれ全身を巡行し、身体に必要な栄養をもたらし、身体・臓器を形作っています。
水
生体の物質的側面を支える要素が血と水です。
水は気の働きを担って生体を滋潤する無色の液体と定義されます。
気の異常
【気虚】
気の絶対量が不足した状態です。産生の低下、消費の増加が原因です。
全身倦怠感・易疲労感・気力の低下・食欲不振をきたします。
【気逆】
気は頭部から下肢、あるいは中心から末梢へと向かいます。これが逆流した状態を気逆といいます。
冷えのぼせ・発作性の頭痛・動悸発作・焦燥感を引き起こします。
【気鬱】
気の流れがうっ滞した病態です。
抑うつ気分・喉のつかえ感・腹部膨満感などがあります。
血の異常
【血虚】
血の量の不足した場合に血虚の病態を呈します。
皮膚の乾燥やあれ、爪の割れ、頭髪が抜けやすい、月経異常を呈します。
【瘀血】
血の流通が阻害された状態です。停滞して血は、血の機能を発揮できなくなるとともにかえって有害なものとなります。
不眠・精神不穏・目のくま・月経異常を呈します。
水の異常
【水滞】
体内での分布の異常、水の体外への消失、消失による量の不足をすべて水の偏在と捉え、水滞という一つの病態で認識しています。
朝のこわばり・めまい・めまい感・水様の鼻汁・立ちくらみ・嘔吐・下痢・車酔いなどがあります。
五行説と五臓六腑
漢方の基本的な考え方である「陰陽五行説」は、「陰陽論」と「五行説」の二つの説から成り立っています。
五行説では5つの要素が、お互いの性質を助け合ったり、打ち消し合ったりすることで、あらゆるものがバランスを保っていると考えます。
五行説は5つの要素の性質は以下のとおりです。
木(もく):草木が育つように広がる性質
火(か):炎のように盛んな性質
土(ど):物事を育む豊かな性質
金(こん):堅いものが変化する性質
水(すい):冷たく流れる性質
この「五行説」を身体に応用したのが、「五臓」の考え方です。 人間の身体は複数の臓器から構成されており、胸腔および腹腔内に存在する臓器を一般に臓腑といいます。臓腑の実質臓器が五臓(肝・心・脾・肺・腎)で、管腔臓器が六腑(胆・小腸・胃・大腸・膀胱・三焦)です。ただし、現代解剖学には三焦に相当する臓器はありません。また、それ以外の臓腑についても、その静止機能は西洋医学よりも広い概念を持っています。なぜなら、江戸時代後期に西洋医学導入時、それまで中心的医療概念である漢方医学の解剖用語を借りて、西洋医学的解剖用語としたからです。なお、膵臓の膵と云う概念や腺と云う概念は、それまでの漢方には無かったので、その時になって作られた文字です。これを国字といいます。
| 五臓 | 機能単位としての五臓の働き | 五臓の異常を示唆する症候 |
|---|---|---|
| 木=肝 | 1.精神活動の安定化 2.栄養素の代謝と解毒 3.血液の貯蔵と全身への栄養供給 4.骨格筋のトーヌスの維持、運動や平衡の制御 | 1.神経過敏、易怒性、いらいら 2.じん麻疹、黄疸 3.月経異常、貧血 4.頭痛、肩こり、めまい、筋肉の痙攣、腹直筋の攣急 5.季助部の腫れ・痛み |
| 火=心 | 1.意識レベルの維持、意識的活動の統括 2.覚醒、睡眠リズムの調節 3.血液の循環 4.熱の産生、汗の分泌、体温の調節 | 1.焦燥感、興奮、集中力低下 2.不眠、嗜眠、浅い眠り、夢が多い 3.動悸、息切れ、徐脈、結代、胸内苦悶 4.発作性の顔面紅潮、熱感 |
| 土=脾 | 1.食物の消化・吸収、水穀の気の生成 2.血液を滑らかにし、血管からの漏出防止 3.筋肉の形成と維持 | 1.食欲低下、消化不良、悪心・嘔吐、胃もたれ、腹部膨満感、腹痛、下痢 2.皮下出血 3.脱力感、四肢のだるさ、筋萎縮 4.考え込み、抑うつ |
| 金=肺 | 1.呼吸による宗気の摂取、全身の気の流れの統括 2.水穀の気の一部から血と水を生成 3.皮膚の機能の制御、防衛力の保持 | 1.咳嗽、喀痰、喘鳴、鼻汁、呼吸困難、息切れ、胸のふさがった感じ 2.気道粘膜の乾燥 3.発汗異常、かゆみ、かぜをひきやすい 4.憂い、悲しみ |
| 水=腎 | 1.成長、発育、生殖能を司る 2.骨、歯牙の形成・維持 3.泌尿能、水分代謝の調節 4.呼吸能の維持 5.思考力、判断力、集中力の維持 | 1.性欲低下、不妊 2.骨の退行性変化、腰痛、歯牙脱落 3.浮腫、夜間尿、目や皮膚の乾燥 4.息切れ 5.健忘、根気がなくなる、恐れ、驚き 6.白内障、耳鳴り |

主な腹部の症状について
胸脇苦満(きょうきょうくまん)
みぞおちから両脇にかけて重苦しい感じがあり、腹筋が張っています。そこを押すと抵抗を感じ、息が
つまるような痛みがあります。
柴胡を中心とした処方(柴胡剤)を虚実に応じて選択します。
胃内停水(いないていすい)
心下振水音ともいいます。みぞおち(胃のあたり)を軽くたたくと、ピチャピチャという水が揺れている音(振水音)がします。
胃下垂、胃アトニーになどで胃が下がっている人に多く、やせ型の人にみられます。
心下痞硬(しんかひこう)
みぞおちがつかえて硬くなっています。みぞおちのあたりを押すと、強弱さまざまな抵抗や痛みを感じる状態です。
黄連、人参を配合した処方を選択します。
瘀血(おけつ)
瘀血は、「血」が体内で滞った状態で、顔色の悪い人、痔や月経不順のある人などにみられます。へその周囲や右脇腹を押すと痛みがあります。
その他の症状に目の下のくま、顔の皮膚が黒っぽい、顔や胸に毛細血管が浮かびあがる。舌の赤黒さ、肌荒れ、熱感、手のひらの赤みなどが現れます。駆瘀血剤を用います。
臍上悸(せいじょうき)
へそのすぐ上あたり(腹部大動脈)に動悸を触れる状態です。
桂枝、黄連、地黄、大棗、甘草などを配合した処方を選択します。
臍下不仁(せいかふじん)
へその上に比べ、へその下や下腹部の腹力が弱い状態です。加齢や体力消耗の表れと考えます。
腸の蠕動抗進(ぜんどうこうしん)
腹部の腸の動きがよく見える状態で、腹力が弱くなっています。腸閉塞をおこしかけている人などにみられます。大建中湯を選択します。
腹直筋緊張(ふくちょくきんきんちょう)
左右両方または左右どちらかの腹直筋が硬く、緊張している状態です。芍薬を配合した方法を選択します。
漢方薬を服用する際に注意が必要な人
妊娠中、妊娠の可能性のある人
妊娠中の人や妊娠している可能性のある人は、胎児への影響や流産の危険性などから、あらかじめ医師・薬剤師に相談したうえで漢方薬を服用しましょう。
とくに大黄には、子宮を収縮させたり、子宮などを充血させる作用があり、流産や早産の危険性が高くなります。大黄を含む三黄瀉心湯、大黄甘草湯、大黄牡丹皮湯などの使用には注意しましょう。
また附子を含む真武湯、八味丸、附子人参湯などの処方では、胎児への影響も考えて使用避けるようにしましょう。
うっ血を改善する桃仁、牡丹皮などにも注意が必要です。
授乳中の人
乳児に母乳で授乳している人は、薬の成分が母乳中に入り、乳児に悪影響を与えることがあります。あらかじめ、医師・薬剤師に相談したうえで、漢方薬を選ぶようにしてください。
とくに、大黄を含む、大黄甘草湯、大黄牡丹皮湯、防風通聖散などの処方では、乳児に下痢をおこさせますので、服用を避けるか、授乳を中止してください。
持病のある人
高血圧、不整脈、心臓病、腎臓病のある人は、甘草を含む、安中散、葛根湯、甘草湯などの多くの処方で、服用するとむくみ、血圧の上昇、尿量の減少、脱力感などをおこすことがあります。
高血圧、不整脈、心臓病、前立腺肥大症、甲状腺機能障害のある人は、麻黄を含む葛根湯、小青竜湯、麻黄湯などの処方で、動悸、血圧の上昇をおこすことがあります。
また、からだの虚弱な人では、麻黄によって、汗をかきやすく、脱水、動悸をおこすことがあります。
このような人は、あらかじめ医師・薬剤師に相談してください。
漢方薬の主な副作用
過敏症状
薬の服用によって、発疹、発赤、かゆみ、じんましんなどが現れることがあります。
こうした過敏症状が現れたときには、服用を中止して、医師・薬剤師に報告・相談してください。
また、これまでに過分症状をおこしたことのある薬の服用は避けてください。
自律神経症状
麻黄を含む処方では、不眠、発汗、頻脈(脈が速くなる)、動悸などが現れることがあります。
このような症状が現れたときには、服用を中止して、医師・薬剤師に報告・相談をしてください。
胃腸症状
麻黄、地黄、大黄などを含む処方では、胃部の不快感、食欲不振、下痢、腹痛などが現れることがあります。
こうした症状が現れたときには、服用を中止して、医師・薬剤師に報告・相談をしてください。
偽アルドステロン症
甘草を含む処方を長期間服用していると、尿量の減少、血圧の上昇、むくみ、手がこわばる、頭痛などが現れることがあります。
こうした症状が現れたときには、服用を中止して、医師の診察を受けてください。
肝機能障害
小柴胡湯、柴朴湯などの柴胡を含む処方、黄連解毒湯、葛根湯、桂枝茯苓丸、辛夷清肺湯、清上防風湯、温清飲、人参養栄湯、防風通聖散、麻黄附子細辛湯、大建中湯、牛車腎気丸、清心蓮子飲、八味地黄丸、半夏瀉心湯、小青竜湯、防已黄耆湯、麦門冬湯、十全大補湯などでは、全身の倦怠感、黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)などが、まれに現れることがあります。
こうした症状が現れたときには、服用を中止して、医師の診察を受けてください。
間質性肺炎
小柴胡湯、柴胡桂枝湯、柴朴湯、柴苓湯、大柴胡湯、柴胡桂枝乾姜湯、乙字湯、黄連解毒湯、辛夷清肺湯、清心蓮子飲、清肺湯、麦門冬湯、半夏瀉心湯などでは、せきをともなった息切れ・呼吸困難、発熱などが、まれに現れることがあります。
こうした症状が現れたときには、服用を中止して、医師の診察を受けてください。
膀胱炎
小柴胡湯、柴胡桂枝湯、柴朴湯などでは、血尿、残尿感などの膀胱炎の症状が現れることがまれにあります。 こうした症状が現れたときには、服用を中止して、医師の診察を受けてください。

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